プログレおすすめ:Inner Odyssey「Ascension」(2015年カナダ)
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最終更新日:2015/12/03
2015年, カナダ, プログレッシブ・メタル Inner Odyssey
Inner Odyssey -「Ascension」
第143回目おすすめアルバムは、カナダのシンフォニック系のプログレッシブ・ロック/メタルのバンド:Inner Odysseyが2015年5月に発表した2ndアルバム「Ascension」をご紹介します。
バンドの結成はVincent Leboeuf-Gadreauを中心にカナダはケベックで活動していた2007年へ遡ります。ハードコアをメインに演奏していたVincent Leboeuf-Gadreauは、アメリカのDream TheaterやSymphony X、ポーランドのRiverside、イギリスのPortcupie Treeなどの多くのプログレッシブ・メタル系のエッセンスを持つバンドからの影響を受けます。その影響を受けた結果、プログレ隆盛期である1970年代から脈略となり受け継いできた抒情的で感傷的なエッセンスを強く感じさせながら、プログレッシブ・メタル系のアンサンブルで聴かせる新しいプロジェクトとしてがバンド(Inner Odyssey)が結成されました。
結成当初、Inner Odysseyは、Vincent Leboeuf-Gadreau(ギター兼ボーカル)を中心に、Simon Gourdeau(ベース)、Étienne Doyon(ドラム、ボーカル)、Mathieu Chamberland(ピアノ、キーボード)、Pier-Luc Garand Dion(ボーカル)の5人の構成され、1stアルバム「Have A Seat」を2011年に発表していました。
その後、Pier-Luc Garand Dion(ボーカル)が脱退し、当2ndアルバム「Ascension」では、Étienne Doyonがメイン・ボーカルを担当し、4人編成になっています。
1stアルバムでは、楽曲のところどころで、影響を受けたと云うDream Theater、Symphony X、Riverside、Portcupie Treeなどに代表されるメタル系のエッセンスを感じさせてくれたものの、当2ndアルバムでは、そのメタル系のエッセンスが薄れ、それ以上に、アコースティック・ギターやピアノなどのアコースティカルな音の比重が増え、
バンド本来が持つ抒情的でありメロディアスさ溢れるサウンドが愉しめるアルバムと思います。
楽曲について
随所にハーモニクスを散りばめながら奏でられるアコースティック・ギターのフレーズが印象的に冒頭曲1「Why am I Here?」は幕を上げます。この緩やかなアンサンブルの冒頭部には、まるで同国カナダの代表的なバンド:HARMONIUMを彷彿とさせるプログレ・フォーク系のエッセンスを感じさせてくれます。そして、この緩やかな冒頭部に続き、アコースティック・ギターをメインのアンサンブルに、浮遊さあるサウンド・メイキングで、ヴァースが入ります。高音を効かせたボーカリゼーションによる唄メロのメロディラインも緩やかな展開を示し、ベース、ドラム、シンセが加わりバンド・サウンドによるアンサンブルでもその様相は同様です。
そう、1stアルバムで感じえたメタル系は薄れ、バンド本来が持つ抒情的でありメロディアスさ溢れるシンフォニック系のサウンドに包み込まれていく。
静から動へと移行するアンサンブルにて、動のパートは決してメタル系を濃厚に醸し出すのではなく、静のパートを大切するかのように展開する動のパートが印象的な楽曲です。
冒頭曲以外でも、パーカッシブにもベースのファンクネスを効かせた冒頭部の2「Something More」、スパニッシュ風のギター・ソロのフレーズを聴かせてくれる3「A World of My Own」、インストルメンタルのパートではテクニカルに躍動的にプログレッシブなエッセンスを聴かせる4「My Purpose」、軽快なスキッフルをリズミカルに効かせるパートを含む5「Losing Your Mind」、当アルバム中では最もメタル系に轟音を轟かせるアンサンブルの7「Lifelong Misery」、リリカルなピアノに、流麗なコーラスワークが素敵な8「Introspection」、ハードエッジでテクニカルなギターがメインの前半部と、クリーントーンのギターによるミニマルなフレーズがメインの後半部が印象的なインストルメンタルの9「Retrospection」など、楽曲それぞれに特徴あるサウンド・メイキングを含みながら、アンサンブルの中心には、アコースティック・ギターをメインに、バンドのメンバーによるコーラスワークと思います。
その特徴あるアンサンブルの感覚にアコースティック・ギターの比重を下げ、ピアノの比重を上げた10「You Are Not Alone」は、ヴァースの唄メロのメロディアスさが他楽曲以上に濃厚に感じさせてくれる楽曲です。イギリスのバンド:Portcupie Tree、強いては、その中心メンバーであるSteve Willsonのソロ・アルバムの楽曲での抒情性ある唄メロのメロディラインを彷彿させてくれます。さらに、個人的には、ギターのアンサンブルも含めれば、1980年代前半のニューロマンティックムーブメントに最も活躍したイギリスのバンド:Duran Duranらしき特有のロマンシズムさも感じさせてくれるんです。緩やかにも楽曲の最後までゆっとりと聴かせてくれます。
最終曲11「Where It Begins, Where It Ends」は、前曲9「Retrospection」のロマンシズムを踏襲しつつも、それだけで終わらない展開を魅せる楽曲です。冒頭部のヴァースで魅せるバンドのメンバーによるユニークなコーラスワークは、楽曲のアンサンブルで「コーラスワーク」と云う先入観を持ち感じえてはいけないと考えさせられます。それこそがプログレッシブ・ロックの真骨頂とも思います。1分40秒前後からバンド・サウンドへ展開し、ユニークなコーラスワークの断片をメロディラインのモチーフに紡ぎ合い聴かせるインストルメンタルでドラマチックに聴かせるパートが印象的です。2分30秒前後からのダウン・ストロークによるギターのフレーズとリズムセクションが交錯するパートを挟みながら、4分30秒前後からは、6分30秒前後と7分前後のベンドを効かせたキーボードのソロを交えながら、ギターによるメロディアスなソロが聴けます。そして、8分前後からはコーラスワークを素敵に聴かせながら、力強さをますメロディアスな唄メロのヴァースが展開し、楽曲はクロージングを迎えます。
1stアルバムを聴き、次に当2ndアルバムを一聴すると、たとえば、ゴシック系のエッセンスをもつイギリスのバンド:Anathemaが、より透明度のあるシンフォニック系のプログレッシブ・ロックのバンドへと変貌した時期の印象と同様な感覚を憶えました。そして、アコースティック・ギターとコーラスワークがプログレ・フォーク系の抒情性さを垣間見せながらも、バンドが持つ唄メロのメロディラインのメロディアスさと、時に静と動のパートを効かせたシンフォニック系のアンサンブルが素敵なアルバムです。
[収録曲]
1. Why am I Here?
2. Something More
3. A World of My Own
4. My Purpose
5. Losing Your Mind
6. Crawl
7. Lifelong Misery
8. Introspection
9. Retrospection
10. You Are Not Alone
11. Where It Begins, Where It Ends
唄メロのメロディラインという観点でいえば、たとえば、イギリスのバンド:Portcupie Tree、強いては、その中心メンバーであるSteve Willsonのソロ・アルバムの楽曲で、抒情性ある唄メロのメロディライン、個人的には、1980年代前半のイギリスを中心としたニューロマンティックムーブメントのバンド(Duran Duran、Spandau Ballet、Human League)の持つ独特のふくよかなメロディアスさが好きな方におすすめです。
プログレッシブ・ロックの観点でいえば、プログレ・フォーク寄りのアプローチ、または、イギリスの5大プログレ・バンドでいえばYesを想起させるコーラスワークなど、シンフォニック系のアンサンブルで垣間見せるプログレッシブ系のエッセンスが好きな方におすすめです。
アルバム「Ascension」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲目の「Where It Begins, Where It Ends」
ほぼ前奏がなく展開される冒頭部の最初のヴァースで突如不自然とも思えるコーラスワークに、Yesを想起させる感覚を憶え、さらに、続くギターを中心としたパートでは、そのコーラスワークの断片をモチーフの1つに展開する様に、シンフォニック然としたプログレッシブ・ロックのバンドでは、これまでにない練られた楽曲の展開を感じたからです。
2曲目は、9曲目の「You Are Not Alone」
美メロともいえる展開、オープニングから、まるでDuran Duranをオマージュしているかのようなプログレッシブ・ロックとは、かけ離れた感覚を感じたからです。素敵なメロディラインを持つ楽曲ですね。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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