プログレおすすめ:Rush「Hold Your Fire」(1987年カナダ)
Rush -「Hold Your Fire」
第49回目おすすめアルバムは、カナダのプログレ・ハード系のプログレッシブ・ロックバンド:Rushが1987年に発表した12thアルバム「Hold Your Fire」をご紹介します。
初期にイギリスのハードロックバンド:Led Zeppelinからの影響を感じることもありましたが、デビュー後のアメリカ・ツアーから、Geddy Lee(ボーカル、ベース、シンセ)、Alex Lifeson(ギター、シンセ)、Neil Peart(ドラム、パーカッション)によるたった3人のメンバーが、メンバーを変えることなく、常に独創的な音楽性を提示してきました。その独創さ自体が「プログレッシブ」とも云える存在ですよね。
1980年代のRush
1980年代の作品には傑作と云われる1980年発表の7thアルバム「Permanent Waves」や1981年発表の8thアルバム「Moving Pictures」以降に、よりサウンドが現代的に洗練され、シンセの比重を強めた作風と1980年代の俗にいうハードポップが特徴を示すような音楽性を展開していきます。個人的には、シンセにクールさが楽曲に融合を図ったと感じてる10thアルバム「Grace Under Pressure」が好きなのですが、全体にドラマチックでいてコンパクトで分かり易さを伝わるという点で、この12thアルバム「Hold Your Fire」がはずせないのです。続く13thアルバム以降、また異なるアプローチを魅せることとなる1980年代のクリエイティブ性の最後を飾る1枚としても重要なのです。
楽曲について
冒頭曲1「Force Ten」は、プログレ・ハード的なアンサンブルで既にエンジン全開のような印象の楽曲ですが、1分30秒や2分35秒前後のヴァースなどによるテンポチェンジがあることで、妙に心を弾ませたままにせず、ホッと一息をつかせながら「穏やかさ」と「弾ませさ」を同居させながら楽しめるかと思うんです。Geddy Leeの声質も含め、他技巧派なプログレ系のバンドには見られないこの要素がRushを好きな1つかもしれません。たとえば1980年発表の7thアルバム「Permanent Waves」の挿入歌でシングルヒットした名曲「Spirit Of The Radio」も同様な感覚を憶えたものです。
2「Time Stand Still」や7「Mission」は他楽曲と比べてもその唄メロにメロディアスさが目を引きます。
心弾ませるのに十分なギターのリフによるイントロではじまる前者2「Time Stand Still」は、過去にはなかった女性ボーカルをゲストに迎えた楽曲。その女性ボーカルとGeddy Leeとのコーラスの掛け合いによるパートが終わるや、疾走感のあるサビの流麗の流れが心に残るんです。また、女性ボーカルとGeddy LeeによるパートだけはGeddy Leeのベースは鳴りを潜めていますが、ヴァースやサビでは水を得たかのように駆け回るため、より一層心弾ませてくれます。同時期に活躍したハード・プログレ系やメロディック・ハード系でポップさあるバンドにはないRushの独自性がここにあるんです。
落ち着いた佇まいの4「Second Nature」や中国を意識したようなフルートの音色によるイントロと後半部のディレイかかったクリーントーンのギターで軽やかさが印象的な9「Tai Shan」では楽曲全体で心をホッと落ち着かせてくれますが、アルバムの大半はコンパクトで分かり易く躍動感を感じさせてくれる楽曲が占めているのが特徴です。
3「Open Secrets」、5「Prime Mover」、6「Lock And Key」のシンセでも聴かせる感覚は、1980年代以前ではない当時のアレンジ遍歴を垣間見せてくれます。
また、7「Mission」は、冒頭曲1「Force Ten」と2「Time Stand Still」を足して2で割ったような躍動的でメロディアスな印象の楽曲ですが、中間部以降のAlex LifesonのギターやNeil Peartのパーカッションには特筆すべきパートがあり、アルバム中でも聴きどころの1つといえるかもしれません。
そして、8「Turn The Page」はGeddy Leeの奏でるテクノっぽさを想起もしましたが、コード進行も含め、他では味わえない独創的な展開に驚かされます。
最終曲10「High Water」は落ち着いた印象の楽曲ですが、Neil PeartのドラムとGeddy Leeのベースにより構築される一定のリズムシークエンスを繰り返すことで、より大陸的なエッセンスも感じさせてくれます。そのGeddy LeeのベースのフレーズもAlex Lifesonのギターと絡み合う2分前後から、アタッキングを強め、そのシーケンスパターンも変貌させます。印象的なギターソロや、4分40秒以降にはシンセの異なるテーマが包み込み、楽曲はゆったりとクロージングを迎えます。まるでレゲエの与えるエッセンスを新しく再構築し独創性も感じるままにです。
アップテンポやポップ性により妙に心を弾ませる躍動させるということではなく、聴いているうちに自然と穏やかに少しずつ心を弾ませてしまう魅力が詰まってたアルバムではないでしょうか。個人的な印象として1982年発表の9thアルバム「Signal」以降でGeddy Leeのベースのフレーズが最も意識し感じられるからかもしれません。
[収録曲]
1. Force Ten
2. Time Stand Still
3. Open Secrets
4. Second Nature
5. Prime Mover
6. Lock And Key
7. Mission
8. Turn The Page
9. Tai Shan
10. High Water
1980年代のシンセを多用したRushサウンドの集大成とし、よりハードポップ的な展開で聴きやすさを求める方におすすめです。
当アルバムのシンセをアンサンブルに多用されたハードポップ的な展開を好きになった方には、1980年代のシンセを多用した他アルバムもおすすめです。
明日へのプログレ
個人的には、プログレと云われるとメロトロンやフルートを印象的に抒情性に感じるエッセンスや、ファンタジックさ、センチメンタルさを最も好んでしまいます。
どこかで不安げな気持ちを引き摺り、どうしても心がおぼつかない時などに、大らかな音楽を聴いてみたいと思うものです。カンタベリー系やジャズ系のクロスオーバー的なバンド以外にも、5大プログレバンドのうちの一つ:Yes、オランダのプログレッシブ・ロックバンド:Focus、コーラスワークが煌びやかなスウェーデンのバンド:Moon Safari、そして、今回「おすすめプログレアルバム」で取り上げたRushなどが真っ先に思い浮かびます。共通し感じるのは、煌びやかな唄メロと大らかなさを感じる声質のボーカルであること。
みなさんはいかがですか?
プログレでなくても良いのですが、心を晴々とさせる自分にとって大切な音楽があればなんでも良いんです。
アルバム「Hold Your Fire」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲目の「Time Stand Still」
当アルバムではじめて女性ボーカルがゲストでコーラスを取ったことも衝撃を受けましたが、ギターによるイントロから唄メロによるGeddy Leeの力強さ、そして、女性ボーカルによる「Time Stand Still」のコーラスから、疾走感を増すサビを聴くたびに、いつも勇気づけられます。。
2曲目は、6曲目の「Mission」
イントロやヴァースでのランニングするベース、中間部のパーカッシブさ、後半部のフェードアウトするまでのギターソロなど、聴きごたえが十二分にあり、冒頭曲1「Force Ten」のように躍動さを感じます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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