プログレおすすめ:Emerson, Lake & Palmer「Tarkus(タルカス)」(1971年イギリス)
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最終更新日:2015/12/26
1970年代, ELP(5大プログレ), イギリス Carl Palmer, Emerson Lake & Palmer, Greg Lake, Keith Emerson
Emerson, Lake & Palmer -「Tarkus」
第204回目おすすめアルバムは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Emerson Lake & Palmerが1971年に発表した2ndアルバム「Tarkus」をご紹介します。
三和音(B♭、E♭、G)は維持されたまま、ベース音のCが突然C♭へ
そのアートワークは、戦車と合体したアルマジロらしき生物が、大地を威風堂々と突進していく姿が描かれ、強烈なイメージを残す。・・・まるでEmerson, Lake & Palmerの音楽の特徴を物語るかのように・・・。
・・・当アルバム発表が発表された1971年から遡ること1年前、Greg Lakeの知り合いである画家のWilliam Nealは、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド:Rare Birdが1970年に発表したアルバム「As Your Mind Flies By」の制作過程で、このアルマジロらしき生物のごく初期のアイデア絵を描いていました。しかし、当時は誰にもこのアイデアを好まれず、グラフィックには活かされなかったといいます。
月日が経ち、Greg Lakeから声がかかり、Emerson Lake & Palmerから制作予定の2ndアルバムへのアイデアを求められたWilliam Nealは、この初期アイデアの絵を持ち出したのです。そのアイデアを見たKeith Emersonは、制作していた音源(のちの「Tarkus(タルカス)」となる音源)のイメージに相応しく、逆に絵が音楽に合っているように思えたそうです。いくつかの異なる種の動物に、機械までもが一体化するという種を分断し再構築するかのように、まるでイギリスの自然科学者:Charles Darwinの進化論に反するようなイメージだったと。
そして、翌日、Keith Emersonは車の運転中に、イギリスの自科学者にて小説家:Henry William Williamsonの1972年刊行の代表作「Tarka the Otter(かわうそタルカ)」からヒントを得たとも記憶にあるらしいですが、アルマジロらしき生物に「Tarkus(タルカス)」という名前を思いつき、採用されることとなります。
そう、Greg Lake(ボーカル、ベース、ギター)、Keith Emerson(ピアノ、ハモンド・オルガン、ムーグ・シンセサイザー)、Carl Palmer(ドラム、パーカッション)のトリオ編成による代表作の1つに挙げられる2ndアルバム「Tarkus(タルカス)」は、それぞれが異なる道を歩んでいた『サウンド』と『ビジョン』が交差し合って生まれた偶然にして素晴らしい産物とも云えます。
架空の怪物「Tarkus(タルカス)」が火山の中から出現し、大地を破壊尽くし、海へと戻っていくと云う進化論に反しながらも、どことなくそうとは限らないようなSFチックなコンセプトやストーリーは後付けで作られていますが、
Emerson Lake & Palmerのイマジネーションが存分に発揮された組曲を含むアルバムとして、バンド史上避けて通れないアルバムと思います。
楽曲について
当時のレコードでは、A面全部を占める組曲1「Tarkus」は、重厚なシンセサイザーの音色に続き、8分10拍子で幕を上げます。Keith Emersonのムーグ・シンセサイザーのリフやハモンド・オルガンの旋律、タイトなリズムを叩きだすCarl PalmerのドラムとGrek Lakeのベースのフレーズは、全7章ごとにエクセントリックさと抒情さを使い分けた唄メロのメロディラインを使い分けながらも、情感を讃えた見事なGrek Lakeのボーカリゼーションとともに、一気に聴かせてくれます。
たえまなくアンサンブルが進行するさまは、アルバム・ジャケットのアートワークにうつる「Tarkus」が大地を破壊し続ける様を見事に描ききっていると思うのです。繊細な一面もあるかと思いますが、ハイ・エナジーに満ち溢れ、スキルフルとテクニックに裏打ちされたハード・ロック系のアグレッシブなタッチで奏でる痛快さは、聴いていて心地良いサウンドスケープを魅せてくれます。いっぽうで、ハード・ロック系によるアグレッシブなタッチだけではなく、プログレッシブ・ロックに見られる長尺構成や変拍子や転調の多用はもちろんのこと、「三和音(B♭、E♭、G)は維持されたまま、ベース音のCが突然C♭」などの意外性のある和音展開など、技巧、テクニックやスキルフルがあるからこそ具現化出来るイマジネーションにも溢れています。
アート・ロックの延長上にトリオ編成による最強の組曲に陶酔してしまう。
組曲1「Tarkus」から感じ取れるアクティビティに比べれば、レコードではB面にあたる全6曲を聴けば、多少トーンを落としたイメージを抱くかもしれません。それでもなお、素晴らしき組曲1「Tarkus」と同時期に制作された全盛期のトリオによるアンサンブルを堪能することが出来ますので、聞き逃してはいけないでしょう。
ホンキー・トンク調に軽快なリズムの2「Jeremy Bender」、クリスタルのような響きを彷彿とさせる前奏と前曲以上に前のめりでホンキー・トンク調に畳み掛ける3「Bitches Crystal」、前半部のチャーチ・オルガンを伴奏と後半部のクラシカルな情感あるピアノの伴奏で唄うGrek Lakeの優雅なボーカリゼーションの4「The Only Way (Hymn)」、打鍵するピアノのリフが強烈に響き印象的な5「Infinite Space (Conclusion)」、ハード・ロック寄りの6「A Time And A Place」、当アルバムを2週間で制作後に即興で制作したと云うオールド・タッチの最終曲7「Are You Ready Eddy?」など、バラエティに富んだ音楽スタイルの楽曲が並んでいます。
アルバム全篇、Emerson, Lake & Palmerの音楽性のすべてを詰め込んだかのような組曲1「Tarkus」と、いっぽうで、Emerson, Lake & Palmerの音楽性を散りばめバラエティ豊かな後半の6曲には、Keith Emersonによるムーグ・シンセサイザー、ハモンド・オルガン、チャーチ・オルガンなどを使い分け、時に優雅なクラシカルさで、時に強烈な打鍵によるエクセントリックさな鍵盤さばきと、Greg LakeとCarl Palmerのリズムセクションも含めたアンサンブルは、Grek Lakeのボーカルとともに、1stアルバムに続き鮮烈な輝きをもったアルバムです。
[収録曲]
1. Tarkus
– a. Eruption(邦題:噴火)
– b. Stones Of Years
– c. Iconoclast
– d. Mass(邦題:ミサ聖祭)
– e. Manticore(マンティコア)
– f. Battlefield(邦題:戦場)
– g. Aquatarkus
2. Jeremy Bender
3. Bitches Crystal
4. The Only Way (Hymn)(邦題:限りなき宇宙の果てに)
Toccata in F and Prelude VI (themes used in intro and bridge only)composed by: Bach
5. Infinite Space (Conclusion)
6. A Time And A Place
7. Are You Ready Eddy?
全篇キーボードを主体として、時にハード、時にリリカルに抒情さあるアプローチで聴かせるクラシカルさを醸し出すロックが好きな方におすすめです。
また、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」の劇中でも流れていた第1章「Eruption」をはじめとし、オーケストラ音楽として聴き覚えがあり、原曲としての「Tarkus」を聴きたい方におすすめです。
当アルバムでEmerson, Lake & Palmerを好きになった方は、あらためて、最高傑作でロック名盤として挙げられる4thアルバム「Brain Salad Surgery」までの全5枚(1stアルバム「Emerson Lake & Palmer」、ライブ・アルバム「Pictures at An Exhibition(邦題:展覧会の絵)」、3rdアルバム「Trilogy」、4thアルバム「Brain Salad Surgery」)を順を追って聴くことをおすすめします。
「Tarkus」のおすすめ曲
1曲目は1曲目の組曲「Tarkus」
何度も聴いてから、ストーリーやコンセプトを調べてみましたが、その結果に関係なく当楽曲のもつサウンド・メイキングよりもイマジネーションを具現化するテクニカルさと、NHK大河ドラマ「平清盛」の劇中でも流れていた第1章「Eruption」の躍動さとそのテンションさ、第2章「Stones Of Years」と第6章「Battlefield」でのGrek Lakeの叙情さある歌唱に魅了されました。当初は「Tarkus」のアートワークに気がひけてしまい、「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ買わない」で購入を避け、当組曲に出逢うのが遅れてしまったのが忍びないです。
2曲目は4曲目の「The Only Way (Hymn)」
楽曲「The Endless Enigma, Part 1(邦題:永遠の鍵パート1)」(3rdアルバム「Trilogy」収録曲)や楽曲「Jerusalem(邦題:聖地エルサレム)」(4thアルバム「Brain Salad Surgery(邦題:恐怖の頭脳改革)収録曲」と云った、Emerson, Lake & Palmerのアルバムにおいて、必ずといっていいほど見受けられるコーラルや教会音楽や聖歌のイメージがオリジナル仕立てとして、前半部のチャーチオルガンによる尊厳な旋律と後半部のピアノによる流麗なリリカルさも含め、素敵です。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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