プログレおすすめ:Genesis「A Trick Of The Tail」(1976年イギリス)
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最終更新日:2015/12/12
1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス, メロトロン Genesis, Mike Rutherford, Phil Collins, Steve Hackett, Tony Banks
Genesis -「A Trick Of The Tail」
第180回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1976年に発表した7thアルバム「A Trick Of The Tail」をご紹介します。
前作6thアルバム「The Lamb Lies Down On Broadway(邦題:魅惑のブロードウェイ)」発表後のツアー終了後、ボーカルのPeter Gabrielが脱退してしまい、バンドは新たな岐路に立たされます。当アルバム収録曲「Squonk」のボーカルを担当したPhil Collinsのその存在(Peter Gabrielに近しい声質)も合い間って、そのまま当アルバムを制作し続けます。
ゆえに、5人から4人となったTony Banks(キーボード、シンセサイザー)、Mike Rutherford(ベースギター、12弦アコースティックギター)、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)による新生Genesisの1枚目にあたるアルバムです!
当アルバムは、Peter Gabrielが脱退としたはいえ、最高傑作にも取り上げられた前々作5thアルバム「Selling England By The Pound(邦題:月影の騎士)」や前作アルバム「The Lamb Lies Down On Broadway」からのサウンドの流れを組むファンタジックさは健在のままに、より複雑なリズムを違和感なく活かしたテクニカルでダイナミックなアンサンブルが印象的です。同じく5大プログレバンド:King Crimsonが4thアルバム「islands」を発表し第1期を終焉し、その後、第2期の5thアルバム「Larks’ Tongues in Aspic(邦題:太陽と戦慄)」とは異なるが男性的なアプローチへの移行と思いました。Peter Gabriel脱退の逆境をはねのけ、
ダイナミズム溢れファンタジックなサウンドが愉しめるネオ・プログレの礎ともなる傑作アルバムと思います。
楽曲について
冒頭曲1「Dance on a Volcano」は、冒頭部のホイッスルやギターによるアプローチが聴けても、楽曲「Dancing With The Moonit Knight」(アルバム「Selling England By The Pound」収録)にある英国然とした気品さある佇まいよりもギターの激しさ溢れるプレイやタイトなリズムを強調したアンサンブルは、新生Genesisを印象強くさせるダイナミックな楽曲です。前作までのGenesisのサウンドが好きな方にとっては、当楽曲のもつクリエイティビティに戸惑いを憶えた方がいたり、逆にGenesisのイメージから新鮮さに圧倒されたり、
インストルメンタル部の迫力あるサウンドが熱く迫ってくる。
2「Entangled」は、従来のGensisサウンドの特徴の1つである12弦アコースティック・ギターを活かした英国然としたフォーク寄りの「佳曲」と呼ぶに相応しい楽曲です。すでに、冒頭曲1「Dance on a Volcano」同様に、Phil Collinsのボーカルは違和感なく聴けるのが不思議なのものです。サビ部のコーラスワークも含め、Steve HackettとTony Banksによるアンサンブルの美しきファンタジックなサウンドは、ただ溜息をつくばかりです。
3「Squonk」は、前作アルバム「The Lamb Lies Down On Broadway」でも魅せたシンセ、ベース、ドラム、ギターによる分厚いサウンドを聴かせるアンサンブルが特徴的な楽曲です。時折、センチメンタリズムさある唄メロのメロディラインが聴けたり、5分50秒後から突如モータウン風の軽快なリズムへ移行するクリエイティビティは1980年代以降のぐっとPOP化するGenesisやPhil Collinsのソロ活動を予見するようなアプローチを感じえます。
4「Mad Man Moon」は、冒頭部のキーボードのフレーズがあまりにも印象強く、Phil Collinsの優しげなボーカリゼーションや唄メロのメロディラインと、リリカルなピアノとともに奏でられるメロトロンも含め、どこまでもメロディアスでどこまでも続く儚さを感じてしまいます。2分40秒前後や3分30秒前後のクラシカルさ溢れるTony Banksのピアノのプレイもたまりません。
5「Robbery, Assault and Battery」は、過去の楽曲では「The Battle Of Epping Forest」(アルバム「Selling England By The Pound」収録)や「The Return Of The Giant Hogweed」(アルバム「Nursery Crime」収録)などを想起させるダイナミックな楽曲ですが、ユーモアさは残しながらもボーカルがPhil Collinsに変わったことでそれほどシアトリカルさは感じられず、さらにインストルメンタルの変拍子やポリリズムさ溢れる巧みなリズム感など、Genesisのテクニカルさやスキルフルさを濃厚に感じさせてくれます。
6「Ripples…」は、2「Entangled」のようにアコースティック・ギターによるアンサンブルで、4「Mad Man Moon」のように拡がりのあるファンタジックさを堪能出来る楽曲です。当楽曲のもつサビ部のシンガー・ロングしたくなるようなメロディックなアプローチは、前作までには見受けられなかった刹那さと繊細さと美しさを共存させていると感じますし、2ndアルバム「Tresspass(邦題:侵入」で出逢ったアコースティカルさにファンタジックさが魅せたクリエイティビティがより洗練されて完成形に近づいてる印象を個人的に思いました。
表題曲の7「A Trick of the Tail」は、The Beatlesの楽曲「Fixing A Hole」を彷彿とさせる、1960年代のサイケデリック時代の弾むポップさを堪能出来ます。ドゥーワップを効かせたり、ハーモニウムや輪唱を使い分けるコーラスワークも含め、従来のGenesisの曲調よりもポップな路線へと移行する様を感じえます。と同時に、従来のGenesisファンが以降も愉しめるかどうかの試金石な1曲ではないでしょうか。
最終曲8「Los Endos」は、ポリリズム溢れるリズムにオルガンの音色がこだまし、冒頭曲1「Dance on a Volcano」で感じえた興奮をいまいちど感じさせてくれるへビーな1曲です。冒頭曲1「Dance on a Volcano」と異なるのはファンタジックなエッセンスも盛り込みつつも、より変拍子をまじえタイトに聴かせてくれる点です。男性味や野性味溢れる熱をはらみ、楽曲「Dance On A Volcano」や楽曲「Ripples …」のメインとなるテーマをリプライズするかののように、エンディング部では名曲「Supper’s Ready」の一節さえ聴かせてくれます。トータル・アルバムとしてのリプライズと、タイムトラベル的な過去アルバムにもリンクさせてアルバムはクロージングします。
Peter Gabriel不在により、従来の楽曲の特徴の1つであるシアトリカルさのエッセンスは薄れ、また、前作アルバム「The Lamb Lies Down On Broadway」で魅せたシュールやリアルさや歌詞がイメージする難解さよりも、アルバム「Selling England By The Pound」でのファンタジックな比重が甦り、よりメロディックな唄メロも感じられます。以降のGenesisのベースとなるサウンドである同時に、1980年代のGenesisフォロワーによるネオ・プログレ系に多大な影響を与えたことも頷ける素晴らしいアルバムです。
[収録曲]
[Disc 1]
1. Dance on a Volcano
2. Entangled
3. Squonk
4. Mad Man Moon
5. Robbery, Assault and Battery
6. Ripples…
7. A Trick of the Tail
8. Los Endos
過去のGenesisのアルバムでいえば、アルバム「Tresspass(邦題:侵入)」でのアコースティカルさやアルバム「Selling England By The Pound」でのメロウでファンタジックさが好きな方におすすめです。より静と動でメリハリを効かせてダイナミックでメロディックなイメージといえるかもしれません。
また、1980年代に隆盛したGenesisフォロワーのネオ・プログレ系のバンドに強く影響を与えたアルバムとしても、ネオ・プログレ系を好きな方にもおすすめです。
異なる観点では、Phil Collinsのソロ・アルバムのうち、シュールさも仄かにシリアスな1stソロ・アルバム「Face Value(邦題:夜の囁き)」や3rdアルバム「No Jacket Required(フィル・コリンズIII)」以降よりも、2ndアルバム「Hello, I Must Be Going(邦題:心の扉)」のメロディックなポップさやそのボーカル、ギタリストのMike Rutherfordが後に組むバンド:Mike + The Mechanicsの1st同名アルバムで魅せるサウンドやメロディックな感覚などが好きな方にも触れて欲しい1枚です。
当アルバム以降、ポップさも加速するGenesisは、全8曲、名曲に相応しく1980年代や1990年代に多大と影響を与えていると思います。
アルバム「A Trick Of The Tail」のおすすめ曲
1曲目は、6曲目の「Ripples…」
アルバム「Tresspass」でのアコースティカルさやアルバム「Selling England By The Pound」でのファンタジックさが歩み寄ったかのように近づいたサウンドが素敵だからです。
2曲目は、4曲目の「Mad Man Moon」
メロトロンにピアノに、鍵盤系のサウンドが十二分に発揮されていると思います。各楽器の奏でるメロデックさ溢れるファンタジックな旋律は、まさに「メロウ」に相応しくどこまでも拡がりすすむかのような感覚を感じてなりません。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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