プログレおすすめ:Dezo Ursiny「Provisorium」(1973年スロバキア)
公開日:
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最終更新日:2015/12/29
1970年代, ジャズ&フュージュン, スロバキア, フルート Dezo Ursiny
Dezo Ursiny -「Provisorium」
第178回目おすすめアルバムは、スロバキアのプログレッシブなアプローチをするミュージシャン:Dezo Ursinyが1973年に発表した1stソロ・アルバム「Provisorium」をご紹介します。
Dezo Ursinyは、スロバキア(旧チェコスロバキア)の首都ブラチスラヴァに生まれたミュージシャンのよるソロ・プロジェクトです。1960年代にはイギリスのThe Beatlesの影響を受けたバンド:The BeatmenやCreamのカバー・バンド:The Soulmenなどを結成、1970年代にNew SoulmenとProbisoriumと云う2つのプログレッシブ・バンドも結成しアルバム発表やライブ活動を重ねています。
当アルバム「Provisorium」は、Dezo Ursiny自身がギター兼ボーカルを担当とするソロ第1弾となるアルバムの位置付けながらも、Jaroslav Filip(ピアノ、オルガン、ベル、ティンパニ)、Vladimir Kulhanek(ベース)、Jaroslav Sedivy(ドラム)、Jaroslav Kubik(フルート、サックス)とともにバンド編成をとり、さらに、オーボエ奏者をゲストに迎え制作しています。
音楽の特徴は、オランダのプログレッシブ・バンド:Focusを引き合いに出されることが多く、生ピアノを交えたクラシカルさと気品さが漂うジャズ系のエッセンスを感じさせるところではないでしょうか。また、そのクラシカルさや気品さは、過去に数々のタイプのロック・フォーマットのバンドを重ねてきたミュージシャンたちによる洗練さも合い間って、旧チェコスロバキアの地から想像する東欧らしさよりも、
ブリティッシュな香り漂う、気品さにジャージーでブルージ―なサウンド
が聴ける楽曲のクオリティといい、希有な存在ではないかと思います。
楽曲について
リリカルなピアノとギターのフレーズによるクラシカルさや気品さもあるパートで幕を上げる冒頭曲1「Christmas Time」は約19分半にも及ぶ大曲です。まずはジャズ系のエッセンスに溢れたリズム・セクションで淡々にもヴォーカルが唄メロが語られていきます。スローな展開でのアメリカの伝説的なバンド:The Doorsの元ボーカル:故Jim Morrisonを彷彿とさせるボーカリゼーションと、アップテンポな展開でのEmerson, Lake & Palmerの楽曲にみるメロディラインを想像してしまいますね。そう、そのボーカリゼーションからも想像しうるジャズ系とブルージなパートを繰り返しながら、1つ1つ独立した組曲のように、大胆にも「不敵な」と思わせるプログレッシブなロックが展開されていきます。特に、9分30秒前後からのオルガンの響き渡る中、生ピアノによるリリカルなタッチのパート、さらにオルガンによるソロ・パート、サックスのソロ・パートなど、当アルバムの他楽曲以上に気品さを感じさせてくれます。いっぽうで13分からのディスト―ションを効かせたヘビーなギター・ソロとフレーズで不安を煽るようなヴァースをメインとしたブルース・ロックのフィーリングが満載です。
クリスマスのパーティでの様々なシチュエーションを思い描くような優雅な世界観を感じてしまう。
左右のPANを活かしカー・レースを想起させるSEで幕を上げる2「Looking For The Place To Spend Next Summer」は、ギターとピアノによるヴァースのアンサンブルを含めアンニュイさを醸し出しうす曇りかかったパートと、ブルージーでヘビーなロックのアプローチを奏でるギター、オルガンなどを交え1960年代後半のアート・ロックな展開を聴かせてくれます。イギリスのハードロックバンド:Deep Purple、Creamや5大プログレバンド:Yesが初期に魅せたアート・ロック志向も、過去バンドでの経歴による経験とスキルが反映されたような印象ですね。楽曲後半でのEmerson, Lake & Palmerの楽曲を彷彿とさせるブルージーなメロディ感もアクセントに、メイン
の唄メロに戻るジャージーにクロージングします。
3「Apple Tree In Winter」は、イントロなしでヴァースからピアノをメインの伴奏ではじまり、ジャージーな展開の楽曲です。オーケストラやオルガンも交え、ジャズ・バーでのピアノとヴォーカルだけの世界観よりも、下降するメロディラインも含め、仄かな哀愁さを讃え、夜の帳りに少し拡がりのあるホールで、サウンドスケープさせてくれます。英国のジャズ・テイストをもつミュージシャンの楽曲として聴いても違和感もない素敵な仕上がりです。
4「I Have Found」は、パーカッシブなリズム・セクションとピアノの打音をメインとしたアンサンブルがフュージュン系も感じさせながらも、軽やかでスマートに聴かせてくれる楽曲です。1分40秒前後からのビートをひきずるように展開するギターとピアノをメインとしたジャージーなパート、少しずつCreamをカバーしていた頃の経験を活かしたようなブルージなエッセンスも交えつつも、4分20秒前後から7分前後までは、ティンパニも交えた一層パーカッシブなパートへ移行します。たとえば、イギリスの5大プログレバンドの1つ:Emerson, Lake & Palmerのドラマー:Carl Palmerよりも熱をおびないものの、正確無比に音の粒を合わせたクールなパーカッシブ溢れる演奏は圧巻です。そして、メインの唄メロに戻り、楽曲はクロージングします。
アルバム全篇、旧チェコスロバキアのミュージシャンによって制作されたとは想像も出来ないほどに、リリカルさのある生ピアノやオーケストラとタイトなリズム・セクションによるジャズ系のエッセンスをメインとしながらも、おそらく過去のバンド遍歴を活かした1960年代後半からのブリティッシュ・ロックの多種多様なジャンル(アート・ロック、ヘビー・ロック)も交えたプログレッシブ・ロックが聴けるアルバムです。
[収録曲]
1. Christmas Time
2. Looking For The Place To Spend Next Summer
3. Apple Tree In Winter
4. I Have Found
スローテンポでの故Jim Morrisonを想起させるボーカリゼーションとアップテンポでのEmerson Lake & Palmeを彷彿とさせるメロディラインからも、楽曲の良さを引き出すフレキシブルな演奏感がジャズ系やブルージ―な展開が好きな方におすすめです。
また、当アルバムを聴き、Dezo Ursinyに興味を持たれた方は、当アルバムに、ヴァイオリンを交えつつ、ジャズ系のエッセンスの比重が高い2ndアルバム「Pevnina Destva」を聴いてみてはいかがでしょうか。
アルバム「Provisorium」のおすすめ曲
1曲目は3曲目の「Apple Tree In Winter」
旧チェコスロバキアのミュージシャンと思えないほどに、ジャージーでブルージ―な感覚が素敵だからです。
2曲目は1曲目の「Christmas Time」
4「I Have Found」の後半部のパーカッシブさ溢れるリズム・セクションを除けば、当アルバムで展開される音楽性が十二分に包み込まれた素敵な組曲風の楽曲だからです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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