プログレおすすめ:Genesis「Nursery Crime(邦題:怪奇骨董音楽箱)」(1971年イギリス)
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最終更新日:2015/12/23
1970年代, GENESIS(5大プログレ), イギリス, フルート, メロトロン Genesis, Mike Rutherford, Peter Gabriel, Phil Collins, Steve Hackett, Tony Banks
Genesis -「Nursery Crime(邦題:怪奇骨董音楽箱)」
第92回目おすすめアルバムは、イギリスのシンフォニック系のプログレッシブ・ロックバンド:Genesisが1971年に発表した3rdアルバム「Nursery Crime(邦題:怪奇骨董音楽箱)」をご紹介します。
2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入)」発表後、Peter Gabriel(ボーカル)、Tony Banks(キーボード)、Mike Rutherford(ベース・ギター)の3人のメンバーが残り、あらたに、Steve Hackett(ギター)、Phil Collins(ドラム)が加わることで、Genesisの黄金期のメンバーが最初に揃ったアルバムです。2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入)」は筆者がGenesisで最も好きなアルバムですが、楽曲に溢れるエッセンス(静と動のサウンドを繊細と大胆さのあるアンサンブル)のルーツがあると思ったからです。その次作となる当アルバムは、よりサウンドのクリエイティブなクオリティが上がっただけでなく、ボーカルのPeter Gabrielの寓話的なアプローチ(歌詞、ミュージカルさ)とライブでの演劇的なパフォーマンスに、俗にいう5大プログレバンドの他バンド(King Crimson、Pink Floyd、Emerson, Lake and Palmer、YES)のアプローチとは異なる独自性があるのではないでしょうか。
Peter Gabrierlの寓話性や演劇性は、イギリスで同時期に隆盛したグラムロックや、日本でのヴィジュアル系の先駆でもあるとも捉えられます。いっぽうで、YESよりもメロディアスなメロディラインを感じさせるシンフォニックさの本質を聞き逃してしまう方が多く、どうしても5大プログレバンドの中では過小評価されてしまいがちなんですよね。
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楽曲について
エレクトリックピアノと12弦ギターによる印象的なリフから、煌びやかでいて繊細なアルペジオのアンサンブルで幕を上げる冒頭曲「The Musical Box(邦題:怪奇のオルゴール)」の前半1分間を一聴すれば、刹那さ溢れるメロウさに聴き入ってしまいそうになります。1分前後からのフルートの音色やじわじわと刻まれるドラムの音色とともに、Peter Gabrielによるヴァースの異なるテーマにそれだけではない予感をさせつつ、3分30秒前後からのディスト―ションを効かせたSteve Hackettのギタープレイと、その間を埋めるように響くTony Banksのオルガンのリフ、そして、ギターとオルガンのアンサンブルをより一層際経たせるPhil Collinsのドラムによる荒々しさあるパートは、前半の静と比べても動のコントラストがくっきりしています。アコースティックギターを中心とした4分50秒前後から5分30秒のGenesisらしさのあるメロウなパートを挟むことで、この後半部の狂気すら感じるアンサンブルには鳥肌が立ちますね。特に、6分30秒以降のSteve Hackettのギターには、前作の楽曲「The Knife」(2ndアルバム「Trespass(邦題:侵入))」の刺々しさある動のパートを想起させてもくれます。1曲の中で静と動を何度も行き交うサウンドの演劇性もある構成力といい、Genesisの代表曲ともいうべき楽曲です。
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約10分の長尺さを一気に聴かせてくれる、Genesisの繊細さと大胆さのあるファンタジックな世界観を冒頭曲から堪能出来ます。
2「For Absent Friends」は、イントロからSteve HackettとMike Rutherfordによる12弦ギターとエレキギターのアンサンブルを中心に、優雅さもあるフォーク調のハーモニーを効かせた小曲で、続く3「The Return Of The Giant Hogweed」の印象的な3連符のリフを刻むギターによる激しいイントロや、Peter Gabrielの声を潰したようなボーカリゼーションと比べて極端なコントラストがあるぐらいに、繊細なバラードの仕上がりです。いっぽうで3「The Return Of The Giant Hogweed」は、タイトなビートを刻むPhill Collinsのドラムはもちろんのこと、スタッカートなフレーズを刻むMike Rutherfordのベースに、縦横無尽なSteve Hackettのギターと呼応するかのようなPeter Gabrielのフルート、そして、全アンサンブルを包み込むように自己主張するPeter Banksのオルガンに圧倒されますね。ただそれだけで終わらず、4分50秒前後から6分30秒の優雅なエレピの音色と同時に伸びやかなトーンとユニゾンを弾くギターによるインタープレイが素敵なアクセントをつけていると思うんです。楽曲「The Knife」ほど儚さを讃えたメロディラインに胸がかきむしられるまでもなく、それでいて、猛々しさがクローズアップされた楽曲は、7分30秒前後からエンディングのメロトロンにも驚かせられながらクロージングします。
4「Seven Stones」は、オルガンの音色からミドルテンポで語られるヴァースのメロディラインに、印象的なクワイア調のコーラスに一抹の寂しさや哀愁さを感じさせてくれる楽曲です、3分50秒前後のエレキギターのフレーズとともに、響くメロトロンの幽玄なる響きやSteve Hackettのヴァイオリン奏法ともギターの響きにかきたてられ、よりいっそう物悲しさを讃えていると感じえます。Genesisのファンタジックさの楽曲中でもメロウさに刹那さの比重が高いですね。
5「Harold Barrel」は、ピアノとドラムによる心地良いビートとともに、コミカルに軽快なPeter Gabrielのヴォーカリゼーションのヴァースが聴ける楽曲です。たとえば、ロック調のビート感を抜いた曲調にしたThe Beatlesの楽曲「Good Mornig, Good Morning」(1967年発表のアルバム「Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band」収録)のような印象なんです。1分14秒前後からの数秒間や2分40秒以降クロージングまでのメロウなパートのアクセントがあるからこそ、より一層その軽快さを強く感じます。
6「Harlequin(邦題:道化師)」は、12弦ギターのアルペジオを活かしたアンサンブルが、2「For Absent Friends」以上に素朴さ、強いては牧歌的な響きのある楽曲です。イントロ無しから唄メロが始まる構成やヴァースのハーモニーなども含め、どことなく、The BeatlesのFor No OneやHere, There And Everywhereの様相をGenesis風に吸収し昇華したような佇まいです。3「The Return Of The Giant Hogweed」や5「Harold Barrel」を唄った同一人物と思えないぐらいに、ハーモニーと調和するPeter Gabrielのヴォーカリゼーションに、身震いするぐらい驚きを隠せなくなりますね。
冒頭からメロトロンが鳴り響く最終曲7「The Fountain Of Salmacis(邦題:サルマシスの泉)」は、そのメロトロンの響きにシンフォニックさを十分に感じさせてくれて、最初から一気に楽曲の世界観に入り込んでしまう「魔力」みたいな感覚を憶えてしまいますね。淡々と語られるかのようなPeter Gabrielのヴォーカリゼーションが、メロトロンとともに、ギター以上の印象を残すひきずるように刻まれるドラムのリズム感のアンサンブルがよりいっそうシンフォニックなサウンドを彩っていると感じていると、3分15秒前後から4分秒前後の力強いタッピングのギターが加わるパートに想像を裏切られ、5分30秒前に前半のパートが戻れば、冒頭曲「The Musical Box(邦題:怪奇のオルゴール)」よりも刺々しさを抑えてはいるものの、アルバムのクロージングにも相応しく、より壮大なシンフォニック系のサウンドです。そのサウンドだけでなく、半神と妖精の恋模様を語る歌詞など、さらに感じ得れば、よりくっきりと印象を捉えられるかもしれません。
Steve HackettとPhil Collinsを迎え最強のラインナップとなったGenesisによるメリハリをつけたアンサンブルと、Peter Gabrielによる寓話的な発想をアルバム全篇に散りばめた素敵なアルバムではないでしょうか。
[収録曲]
1. The Musical Box(邦題:怪奇のオルゴール)
2. For Absent Friends
3. The Return of the Giant Hogweed
4. Seven Stones
5. Harold the Barrel
6. Harlequin(邦題:道化師)
7. The Fountain of Salmacis(邦題:サルマシスの泉)
特に、冒頭曲「The Musical Box(邦題:怪奇のオルゴール)」の歌詞一節の和訳「年下のヘンリーがシンシアとクロケットをしていると、愛くるしい笑顔でシンシアはバットを高く振り上げてヘンリーの頭を打ち飛ばした」に、イギリスの上流階級のクリケットというスポーツにかけて、おぞましい表現が入るなど、大胆な動のエッセンスを除けば、メロウな静の印象も強いです。ですが、4thアルバム「Foxtrot」、5th「Selling England By The Pound」にも続く、このGenesisらしさもGenesisを構成するエッセンスの1つなんです。
GENESISをフォローワーとする現代のプログレッシブ・バンドでもフォーク寄りからシンフォニックな展開が好きな方や、流麗で切なげなメロディラインが好きな方、もしくは、寓話的やミュージカルさなども含めた音楽感を愉しみたいという方にも、ぜひおすすめなアルバムです。
アルバム「Nursery Crime」のおすすめ曲
1曲目は、冒頭曲の「The Musical Box」
前作アルバム「Trespass(邦題:侵入)」のラスト楽曲「The Knife」が好きなのですが、繊細さと荒削りのある大胆さの勢いを失うことなく発展したと感じる楽曲で、一聴し好きになってしまいました。アルバムのジャケットと歌詞の意味を後で知ることとなり、楽曲全体のドラマチックさにただただ驚きを隠せないからです。
2曲目は、4曲目の「Seven Stones」
Genesisの楽曲に静と動のエッセンスがクローズアップされる中、Genesisの楽曲では穏やかなメロウさのある牧歌的なアプローチとは異なる幽玄さがクローズアップされた楽曲として、印象的すぎます。
当アルバムの楽曲は、本当に1曲1曲が素敵すぎます。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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