プログレおすすめ:YES「Heaven & Earth」(2014年イギリス)
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最終更新日:2021/06/27
2014年, YES(5大プログレ), イギリス Alan White, ASIA, Billy Sherwood, Chris Squire, Geoffrey Downes, Jon Davison, YES
YES -「Heaven & Earth」
第71回目おすすめアルバムは、イギリスの5大プログレバンドのうちの1つ:YESが2014年7月に発表したアルバム「Heaven & Earth」をご紹介します。
ボーカル以外はベースにChris Squire、ドラムにAlan White、ギターにSteve Howe(元ASIA)、キーボードにGeoffrey Downes(現ASIA)の往年のメンバーですが、ボーカルは既にJon Andersonではなく、前作アルバム「Fly From Home」のボーカル:Benowt Davidもライブ3か月でバンドを離れ、当アルバムではアメリカのプログレッシブ・ロックバンド:Glass Hammerのボーカル:Jon Davisonが参加しています。
アルバムを聴く前に焦点は2つでした。1つ目はGlass HammerでもJon Andersonに近しい声質であったJon Davisonが、オリジナルアルバムとして初参加で、どのように楽曲に溶け込んでいくのかという点です。Jon Davisonは全8曲中、単独曲が1曲、共作曲が6曲とほぼ大半の楽曲のコンポンザーを担ってもいます。また、当初Queenで有名なRoy Thomas Bakerがプロデュースとミキングに関わっていたのですが、ライナーノーツによればそのミキングは破棄されてBilly Sherwoodに委ねられ、最終的にアルバム発売も遅れました。2つ目は今回アルバムを聴くことで、当初目指していた内容とどの程度異なるものかと考えさせられてしまうのかという点です。
楽曲について
冒頭曲1「Believe Again」はSteve Howeのスティール・ギターによるフレーズが印象的にイントロを奏で幕を上げます。
煌びやかで朗らかな音像は、アルバムタイトルの「Heaven & Earth」を表現するかのように、穏やかな世界観が拡がっていくようなイメージです。過去の楽曲では、たとえば「Wonderous Stories」(アルバム「Going For The One」の挿入歌)、「Onward」(アルバム「Tormato」の挿入歌)、「It Will Be A Good Day (The River)」(アルバム「Ladder」の挿入歌)などを思い浮かべてしまいます。中間部で厚みのある演奏がありますが、Chris SquireのベースとAlan Whiteのドラムの演奏は想像した以上に大人し目な印象かもしれません。新ボーカル:Jon Davisonによる序曲として新しい旅立ちを祝福するかのようなオープニングは良いかもしれませんね。
過去アルバムの冒頭曲を飾った、たとえば「Roundabout」(アルバム「Fragile」の挿入歌)のようにテクニカル、「Machine Messiah」(アルバム「Drama」の挿入歌)のようにエッジが聴いたリフ、「Lonely Heart」(アルバム「90125」の挿入歌)のようにインパクトのある大衆性、「The Calling」(アルバム「Talk」の挿入歌)のようにロッキングさと云うYESらしさのエッセンスをまず聴き手に送り届け、心に緊張感や満足感を与えるよりも、アルバムに穏やかな心地で入り込んでいくのは新機軸と思うんです。古くからのファンにはどう捉えられたかは分かりませんが、個人的にはポジティブに受け入れたいと思いますよ。
Jon Andersonを想いだしてしまいそうになるYESのコーラス感もある2「The Game」は、ハードなタッチではなくアコースティカルでいて驚くほどメロディアスな楽曲なんです。Chris SquireのベースもAlan Whiteのドラムも冒頭曲1に引き続き抑制されています。Steve Howeが奏でるギターソロやエンディングのフレーズには、Steve Howeの前所属バンド:ASIAの楽曲で聴かれた流麗なフレージングを想い出せてくれますしファンタジックさを感じます。
3「Step Beyond」はアルバム「Drama」、強いてはGeoffrey Downesが過去所属バンド:Buggles風の可愛らしいエッセンスのフレーズがイントロからヴァースへ彩り、その唄メロも2「The Game」と同様にとてもメロディアスな展開なんです。時折垣間見せる「Machine Messiah」風のエッジが効いたギターのフレーズに、アルバム「Drama」期のサウンドを想起してしまう人もいるかもしれません。
4「To Ascend」は「Madrigal」(アルバム「Tormato」の挿入歌)を想起させるような導入部から「Life on a Film Set」(アルバム「Fry From Here」の挿入歌)のようなヴァースの展開で、前曲までよりもスローテンポで牧歌的に拡がりを見せる楽曲かなと感じました。中間部で気の利いた鍵盤のフレーズをさりげなく弾くGeoffrey Downesにはただただ溜息をつくばかりです。
5「In A World Of Our Own」のヴァースでは、名曲「Everydays」(アルバム「Time And Words」の挿入歌)をふと想い出しなんだか嬉しくなり、前曲までのアルバムとは異なる軽快なリズムがありながらもアンニュイで印象的な唄メロに聴けます。また、6「Light Of The Ages」はアルバム中、新メンバーのJon Davison1人で制作した楽曲ですが、5「In A World Of Our Own」と同様にアンニュイな世界観を、特に中間部での鍵盤とスティールギターのフレーズに感じながらも、当アルバムの世界観では異質なイメージが残ります。個人的には「この」アンニュイなエッセンスは好きです。
7「It Was All We Knew」は、古き良き時代のブリティッシュっぽさも感じるChris Squireのベースに導かれ、アコースティックギターのカッティングとともに、唄メロ全体はまさにとびっきりのPOPSなんです!さらにさらにSteve Howeがギターで「大きな古時計」のメロディ風のフレーズをイントロで奏で、サビで唄メロにも活かされ、ユニゾンすることでグッと印象強さを残すんです。肝心な「イ」の音程は感じ取れないが「オオキナノッポノフルドケ~♪」と空耳で聴こえてしまうぐらいに、可愛らしいメロディラインをもった楽曲ですね。
最終曲8「Subway Walls」のイントロやエンディングには、Geoffrey Downesのアレンジが活かされていると感じずにいられません。イントロでは、現ASIAの楽曲「Gravitas」(アルバム「Gravitas」挿入歌)のイントロでシンセが奏でるオーケストレーションのようであり、マイナー調に心揺さぶるシンフォニックさのエッセンスを感じます。ただ、唄メロでは、ごりごりとChris Squireのベースのフレーズも印象的にメジャー調の唄メロ展開なんです。そして、中間部ではAlan Whiteの重たいドラムに、Chris Squireのベースがインタープレイによるソロの応酬をし、さらにSteve Howeのギターのソロが聴かれ、その演奏にはフュージュンっぽさを感じます。ソロパートが終了後、前半部のメジャー調の唄メロが昇り詰めて、ブリッジが解き放たれた7分前後以降では、ボーカルがJohn Payne期のASIAの楽曲「A Far Cry」(アルバム「Aqua」挿入歌)や「Military Man」(アルバム「Aura」の挿入歌)など、其々アルバムのクライマックスを飾った楽曲としての緊迫感溢れるアレンジを想起させるんです!
力強く時に張り上げて情感漂うボーカリゼーションのJohn Payneではなく、Jon Andersonに近しいボーカリゼーションのJon Davisonのボーカルによって当楽曲は新鮮に聴けるし、アルバムの最終曲は緊迫感溢れるエッセンスを少しでも感じえたかなとは思いました。「過去」と「現在」のASIAのエッセンスをYESの楽曲で聴けたのは新鮮ですが、冒頭曲1「Believe Again」をポジティブに受け取った筆者としては、ASIAの「過去」と「現在」のエッセンスを知るからこそ、(John Wettonが唄う「Open Your Eyes」のような展開をも想い描きながらも)徹底的にYESらしくやり切って欲しかったとは思いました。
[収録曲]
1. Believe Again
2. The Game
3. Step Beyond
4. To Ascend
5. In A World Of Our Own
6. Light Of The Ages
7. It Was All We Knew
8. Subway Walls
1970年代前半のプログレ隆盛期からパンクが台頭する1970年代後半に、その音楽事情を生き抜いていくためにコンパクトな楽曲へシフトし、Trevor Hornも参加した時期のアルバム群(「Going For The One」、「Drama」、「Tormato」、「Fly From Here」など)を好む方におすすめです。
また、YESにイメージする部分(テクニカルさ、エッジが聴いたリフ、インパクトのある大衆性、ロッキング)を期待せずに、先入観なく現2014年のYESのカタチ(唄メロにメロウさあるシンフォニック系)を好む方におすすめです。
アルバムのミキングに対し、逆転の発想と妄想と
アルバム全篇でChris SquireのベースとAlan Whiteのドラムが目立った印象がなく、Billy Sherwoodにミキングが変更されたことによる影響かは分かりませんが、ヘビーさよりもライトなテイストにアルバムが仕上がったのではないかとは思いました。Roy Thomas Bakerのミキングではどうなっていたのであろう、と考えずにはいられません。しかし、ミキングが変更されたとしても、2「The Game」のSteve Howeの流麗なギターフレーズや最終曲8「Subway Walls」の各楽器のアンサンブルにどきついアレンジよりも、メロディアなイメージを感じるのです。
そのメロディアスなイメージは、YESの影響を受けたスウェーデンのシンフォニック系のバンド:Moon Safariが2010年に発表したアルバム「Lover’s End」の唄メロやコーラスワークのメロウさを逆に発想してしまいます。そうすろと、唄メロやコーラスワークのメロウさでのシンフォニックな前任者はYES自身で今でも健在なのだと訴求しているのではないかとも妄想してしまうんです。
(これからの2014年ツアーではアルバム「Fragile(邦題:こわれもの)」とアルバム「Close To The Edge(邦題:危機)」を全曲完全再現することもあり、ただ単にその2つの名盤に相反するアルバムを制作しリリースしたのではないかとも感じました。)
アルバム「Heaven & Earth」のおすすめ曲
1曲目は、最終曲の「Subway Walls」
ASIAの「過去」と「現在」のエッセンスと、フュージュンっぽさのあるインタープレイが融合し、さらにYESらしくやり切ったらどうなるだろうかと期待せずにはいられないんです。
2曲目は、7曲目の「It Was All We Knew」
シンフォニックをコンパクトにしたブリティッシュPOPさ、甘酸っぱさが素敵なのですが、YESファンからは賛否両論を呼ぶかもしれませんが、個人的に好きです。
このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。
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Comment
ひじり様
タカヤンと申します。初めまして。
イエスの『ヘヴンアンドアース』の記事に立ち寄りました。
イエスほどの年季になると、やれ、昔より緊張感がなくなった、パワー・テクニックがなくなったとか、あちこちで言われ放題ですが、
私は、単純に70歳のおじいちゃんの理想とする音楽を素直にやっている、ということで納得しています。
今回の新作も、名曲率?が高いとは言えませんが、特に冒頭3曲の明るく溌剌とした雰囲気は素晴らしいと思いました。
ジョン・デイヴィソンの作曲面での貢献も見逃せませんね。巨匠のジイサンたちを相手に、イエス・チルドレンとしての才能をイエスに付与したと思います。
また、読みに来ます。タカヤンより
はじめまして。新作はじっくり聴き込むほどに味が出て
くるようで、なかなか良いアルバムに仕上がったなと思い
ます。90年代からお世辞にも素晴らしいと言える作品が本
当に少なかった。
正直言って、ライブでは「危機」の全曲再現なんかより
も、隠れた名曲を驚くようなアレンジで再現してくれた方
がずっと面白いです。
まだまだ彼らも頑張れます。