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プログレおすすめ:Caravan「For Girls Who Grow Plump in Night(邦題:夜ごとに太る女のために)」(1973年イギリス)

公開日: : 最終更新日:2015/12/11 1970年代, イギリス, カンタベリー・ロック, フルート ,


Caravan -「For Girls Who Grow Plump in Night」

第69回目おすすめアルバムは、イギリスのカンタベリー系のプログレッシブ・ロックバンド:Caravanが1973年に発表した5thアルバム「For Girls Who Grow Plump in Night(邦題:夜ごとに太る女のために)」をご紹介します。

Caravan -「For Girls Who Grow Plump in Night」
Caravanでは、当アルバム「For Girls Who Grow Plump in Night」が最も好きなアルバムです。

Dave Sinclairのオルガンを基調とした淡い感触があり、カンタベリー系のみならず、ロック名盤としても有名な1971年発表の3rdアルバム「In the Land of Grey and Pink(邦題:グレイとピンクの地)」や、そのDave Sinclairが脱退後にジャズ色を強めた1972年発表の4thアルバム「Waterloo Lily」よりも、アルバム前半の楽曲に代表されるカントリー・ミュージックのサウンド感と、ポップなメロディラインが馴染みやすかったというのが、本音です。

カンタベリー系にあるジャズテイストがブレンドされることで、カントリーっぽさに、ファンキーでクールな味わいのあるアンサンブルが愉しめるアルバムとも思います。

当アルバム制作前に、バンドの重要人物の1人:Richard Sinclair(ベース)が脱退してしまいますが、Pye Hastings(ギター、ボーカル)とRichard Coughlan(ドラム)は、入れ替わりで出戻り復帰したDavid Sinclair(キーボード)、新たなにJohn G. Perry(ベース)とPeter Geoffrey Richardson(ヴィオラ)を迎え、5人編成になります。楽曲によっては、Caravanのアルバムではお馴染みのJimmy Hastings(フルート)と、カンタベリー業界で著名な各種管弦楽器奏者(チェロ、クラリネット、サックス、トランペット、トロンボーン、ピッコロなど)が参加してます。

楽曲について

冒頭曲1「Memory Lain, Hugh/Headloss」は「Memory Lain, Hugh」と「eadloss」の2部構成に分かれています。

ソリッドなギターのカッティングで幕をあげる「Memory Lain, Hugh」は、そのままヴァースでもアンサンブルをリードしつつ、それ以上にクールなボーカリゼーションと唄メロのメロディラインにユニゾンするオルガンの旋律は、アップテンポのR&B調な楽曲で心弾まずにはいられません。2分前後からのギター・ソロを含め、楽曲進行がたまれりませんね。3分前後からのフルートの流麗な旋律に、迸った心はいったんクールダウンさせられそうになりますが、3分55秒前後のギターのリフ一閃、乱舞するフルートの旋律とたたみかけるドラムに、ヴィオラが盛り上げ、クロージングします。

カントリー調のギターがメインのアンサンブルに、軽快なヴァースの2「Hoedown」は、当アルバムでも最もポップさを感じさせてくれますが、8分の7拍子にも軽やかで明快に聴かせる演奏力にただただ驚かされます。

3「Surprise, surprise」は、リズミカルさ溢れた唄メロに牧歌的な印象も感じる楽曲です。唄メロのカウンターメロディを弾いているかのようなJohn G. Perryによるユニークなベースラインや、管弦楽器の音色やヴィオラのソロも含め、カントリー・ミュージックっぽさが溢れてます。

4「C’thlu Thlu」は、イントロからSEによるエフェクト処理が舞い、第1ヴァースでのスペース/サイケデリック系の浮遊するサウンドとPye HastingsとJohn G.Perryが掛け合うツインボーカルのアンニュイな唄メロも含め、不穏なイメージをもたせつつも、第2ヴァースでは、突如、転調し、R&B調のブルージーなロックへと明るめなイメージへ展開します。再度、第1ヴァースの不穏なイメージ、第2ヴァースの明るめなイメージが繰り返されると、3分30秒前後からは、ハードエッジなギターのリフがリフレインされ、次第にファズがかかったオルガンとエレクトロリック・ピアノのソロが乱れまい、異質なダークさを醸し出します。それも突如、ヴィオラの短めなソロが響きたるや、これでもかと最後にハードエッジなギターのリフが飛び交います。冒頭曲から3曲続いた軽快さあるアルバムの印象(=先入観)を変えるには、十分過ぎるほど、Caravanのバントとしての演奏力とクリエイティビティの懐の深さに驚かされるばかりです。

5「The dog, the dog, he’s at it again」は、ヴァースの1960年代の古き良きブリティッシュ・ポップさのある、つい鼻歌したくなる口ずさみたくなる唄メロのメロディラインが印象的で、少し翳りかかり唄メロとヴィオラがユニゾンするパートやコーラスが重なるパートに、どこかしら同国イギリスのCrosby, Stills, Nash & Youngが1970年に発表した2ndアルバム「Deja Vu」の挿入歌「Our House」のような郷愁ささや優しげでピースフルさのある唄メロを想起してしまいました。当アルバムでは最もホッと一息つく清涼さがあります。ただそれも、2分20秒前後からのシンセサイザーのソロパートが一筋縄ではいかせない印象を与えますが、3分30秒前後にヴィオラのブレイクとともに唄メロに戻れば、そのメロディラインがよりいっそう素敵に感じてしまいますし、クロージングに向けて、サビ部のコーラスワークが重なりハーモニーも見事としかいいようがありません。

6「Be alright / Chance of a lifetime」は、冒頭曲1「Memory Lain, Hugh/Headloss」の前半部「Memory Lain, Hugh」に近しい躍動的で力強いアンサンブルでアップテンポで進行する前半部「Be alright」、2分30秒前後から
ヴィオラとアコースティック・ギターによるアンサンブルにラテン系っぽさも感じさせてくれる後半部「Chance of a lifetime」の落差に、4「C’thlu Thlu」のヴァース(第1ヴァースと第2ヴァース)と同様な驚きを感じてしまいます。4分前後からのワウを効かせたギターのカッティングと、ヴィオラのソロには、ジャズテイストよりも、ラテンっぽさを感じてしまいますね。また、途中にスキャットが入るあたりは、Paul MacCartneyの歌唱スタイルも想起してしまいます。

最終曲7「L’auberge du Sanglier / A hunting we shall go / Pengola / Backwards / A hunting we shall go (reprise)」は、まさに静と動のメリハリと、徐々に高揚していくドラマチックさを堪能出来るシンフォニックな楽曲です。

ヴィオラとギターのアンサンブルがミステリアスさを醸し出す「L’auberge du Sanglier 」ではスローテンポで進行しながらも、爆音のようなSEとともに、冒頭曲1「Memory Lain, Hugh」や6「Be alright」のように躍動的で力強いアンサンブルが、変拍子がもたらす緊張さで、オルガン、ヴィオラ、ギターがそれぞれ激しくせめぎ合うソロが聴ける「A hunting we shall go」で楽曲は、静から動へヒートアップしていきます。

突如、4分30秒前後に静寂を迎え、「Pengola / Backwards」では、メインのテーマとなる旋律をピアノが途切れ途切れにも一音々々響かせつつ、徐々にオーケストラが盛り上がりをみせ、シンセサイザーやオルガンの旋律もまじえたアンサンブルは、まるで映画のワンシーンを彷彿とさせてくれます。更に、9分15秒前後からの「A Hunting We Shall Go」では、管弦楽器もまじえ、アンサンブルはよりエネルギッシュなアプローチをみせ、突然の爆音のSEとともに楽曲はクロージングしてしまいます。

邦題を直訳した「夜ごと太る女のために」がイメージするものがなかなかつかめずも、冒頭曲のオープニングと最終曲のクロージングまでのアプローチの印象が強く、クールさや穏やかな静のパートと熱を孕むかのような動のパートによるダイナミックなサウンドに、カンタベリー系のプログレッシブ・ロックの系譜のなかでも、Caravanの「かっこいい」側面を濃厚に感じさせてくれる傑作アルバムです。

[収録曲]

1. Memory Lain, Hugh / Headloss
2. Hoedown
3. Surprise, surprise
4. C’thlu thlu
5. The dog, the dog, he’s at it again
6. Be alright / Chance of a lifetime
7. L’auberge du Sanglier / A hunting we shall go / Pengola / Backwards / A hunting we shall go (reprise)

個人的には、Caravanの他アルバムの中でもロックで云えばファンキーさやクールさを感じさせるアルバムの位置づけと捉えており、ポップでいてロックな楽曲が好きな方におすすめです。

また、淡いスペース/サイケデリックなサウンド・メイキングやファズかかったオルガンの旋律もカンタベリー系の特徴の1つですが、当アルバムの中では、スペース/サイケデリックなサウンド・メイキングに異質ささえ感じる4「C’thlu Thlu」という楽曲もあります。それでも、アルバムの大半の楽曲には、ベースやフルートはもちろんのこと、ヴィオラとギターによるアンサンブルが素晴らしく、十二分にクールと感じさせてくれるので、おすすめなアルバムです。

アルバム「For Girls Who Grow Plump in Night」のおすすめ曲

1曲目は、最終曲の「L’auberge du Sanglier / A hunting we shall go / Pengola / Backwards / A hunting we shall go (reprise)」
クロージングでの爆音SEへ辿るまでに、どことこなく同イギリスの映画007でも1970年代のジョンバリー期のサウンドトラックに通じるような奥ゆかしきサウンドが脳裏を掠めてしまう第3パート「Pengola / Backwards」も含め、いずれのパートも楽器のアンサンブルが素晴らしく魅力的なパートばかりです。

2曲目は、5曲目の「The dog, the dog, he’s at it again」
しぜんと鼻歌をしたくなるような、シンコペーションを効かせたメロディラインが素敵です。

このレビューを読み、ご興味を持たれましたら聴いてみて下さいね。ぜひぜひ。

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